見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ 金子みすゞ「星とたんぽぽ」
私たちは忙しい日々の生活の中で何か大切なものを忘れてしまっているのだろうか。
テレビCMで流されていた金子みすゞの「星とたんぽぽ」の一節を知った時、ふと、心の中で重い響きと余韻が残った。
「星とたんぽぽ」 童謡詩人 金子みすゞ
青いお空の底ふかく
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
大切なものとは何か。フランスの作家、サン=テクジュペリの「星の王子様」にもあった。「星の王子さま 岩波少年文庫」
キツネが王子様にいいました。
「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、物事はよく見えないってことさ。肝心なことは、目に見えないんだよ」
「人間っていうものは、この大切なことを忘れてるんだ。」
前に読んだ「豊かさとは何か」暉峻淑子(てるおかいつこ)岩波新書の中に、印象的な文章があった。
著者が旧西ドイツに滞在の時、「豊かさ」を教えられ、ハッとしたことがあった。
ある朝、森を通って仕事に出かけたとき、休暇をとった中年の男性が、森の中の籐椅子に寝転んで、ただじっとしているのに出あった。夕方、帰りにその森を通ると、同じ人が同じようにじっとしている。なんとなくおかしくて私は声をかけてみた。
「あなたは一日中そこで何をしているのですか?」その答えは次の通りだった。
「人間は能動的に、何かに働きかけ仕事をしているときも得るものがある。しかし、目的に向かって一所懸命に何かをしているときは何か、周りにあるものは目には入らない。こうして何もしていないと、小鳥の声、風のそよぎ、落ち葉の音、陽の光、そういうものが、黙っていても聞こえ見えてくる。受け身で自分をカラにして受けることもまた豊かさだ。
私はこうして時々、自然と対話をし交流して、イメージをいっぱいにして都市に戻る。自然と共に生きること、支えあい与えあうこと、平和のこと、子孫に残す社会のことなどを、身体で感じ自分のものにするのです」
何かをすることと同時に、何もしないことの価値が認められているのも、また、豊かさではないかと。